研究・教育DX アプライド導入支援事例

研究データの適切な管理・利活用促進のための環境整備支援

京都大学大学院人間・環境学研究科

認知・行動科学講座 認知科学分野

教授 博士 月浦 崇

■先生が取り組まれている研究はどんな内容でしょうか?

 ヒトの記憶が脳の中でどのように機能しているのかを研究しています。ヒトの記憶(特にエピソード記憶)機能の脳内メカニズムを、機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いた脳機能イメージング法や、脳梗塞や外傷など神経疾患患者への神経心理学法、健常者を対象として実験心理学法など、多様な手法を組み合わせて、研究を進めています。

 嬉しいことや悲しいことなどの情動的な出来事の経験の記憶は、日常的な出来事と比較してより良く記憶されることが知られています。また、報酬を得たり、罰を避けたりする動機付けによってもヒトの記憶は促進されます。例えば、たくさんのことを覚えなければならない大学受験の入試ですが、受験勉強のモチベーションを保つのが大切ですよね。私たちの研究では、全国模試の順位のように知らない他者と競争するよりも、よく知っている友人と競争する方が記憶の成績が向上する可能性があり、その際に他者の意図の推論に関連する側頭頭頂接合部と呼ばれる領域や、報酬の処理に関連する線条体と呼ばれる領域の活動が重要な役割を果たしていることがわかりました。よく相手のことを理解している友人との競争に勝つ(=報酬を得る)ことを期待してモチベーションが上がり、記憶のパフォーマンスが高まるのかもしれません。このように、他者との関係性のような社会的文脈における情動や報酬と記憶の関連を担う脳内メカニズムなどの研究を進めています。

 また、加齢がヒトの記憶に及ぼす影響と、その脳内メカニズムについての研究も行っています。例えば、同世代の人物との交流の中で体験された記憶については、加齢による変化はあまり見られませんが、異世代の人物との交流の中で体験された記憶については、加齢による変化が大きいことも認められています。

 

■そのほかに取り組んでいらっしゃることはありますか?

 人生100年時代と言われている今、心理学、社会学、文化人類学、教育学などのさまざまな分野の研究を連携させて、従来の生涯観を刷新する「生涯学」という大型の科研費の研究プロジェクトをスタートさせています。例えば、昔の60歳と今の60歳では、だいぶイメージが違いますよね。このように加齢観というのは時代とともに変遷しています。これから超高齢化社会がますます進んでいく中で、年をとるのは必ずしも悪いことではなく、プラスの価値観をもってもらうような新しい加齢観を広げることは重要です。このような新しい加齢観の基盤となる脳とこころの働きについて、実験心理学や脳機能計測、神経心理学からアプローチし、生き生きと働くためにはどんな公的サービスやソーシャルサポートが必要なのか、社会学研究から探り、多様な文化を対象としたフィールド調査を基にした文化人類学的研究から、日本とは異なる加齢観を有する文化の調査を行い、最終的にこれらの基礎的な知見を、生涯学習(教育学)を通して社会に還元する。このように多様な分野の融合からヒトの生涯を理解していくためのプロジェクトです。

 全世代の人々が豊かな人生を送れる、超高齢社会のための新しい生涯観を社会と共有することをめざしていきたいと思います。

 

■研究データの利活用のためにNASをどのように活用されていますか?

 機能的磁気共鳴画像(fMRI)ではたくさんの画像が撮像され、画像データ量がとても多くなるので、その適切な保存のためにNASシステムを使用しています。安全に、長期間、故障なく保管したいため、信頼性の高いNASシステムを購入し、使用しています。また、fMRI画像の解析には、近年、機械学習などの手法が用いられて複雑になってきており、できるだけ効率よく解析を進めるため、ワークステーションも購入して、愛用しています。脳の特定の領域と領域の間のネットワーク解析や、先ほど申し上げた機械学習を用いた解析などをする際には、計算が膨大になるため、ワークステーションはとても活躍してくれてます。オーダーメイド的にカスタマイズできるのもいいですね。

 

 

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