研究・教育DX アプライド導入支援事例

大阪大学 研究用MRI共有プラットフォーム事業立ち上げ支援

大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻
生体物理工学講座 先端画像技術学研究室 准教授

国立循環器病研究センター 先端医療技術開発部
病態診断技術開発室 室長

齋藤 茂芳

「研究用MRI共有プラットフォーム」事業を立ち上げたきっかけは?

 現在の医療技術やその中で働く診療放射線技師を取り巻く環境は大きく変化しています。医療技術は日進月歩であり、その中では臨床を知り、研究ができる医療従事者や放射線技師の存在はとても大切で、大学には最先端の研究や技術に対応できる人材の育成が求められています。しかし、実際には臨床においては多くの制約があり、医療従事者や放射線技師が、病院の中で研究環境を整えることが年々難しくなってきています。基礎研究や前臨床研究を積極的に最新の医療技術開発やそれを扱う診療放射線技師などの医療技術者の教育や研究に取り入れることが大切だと考えています。今、取り組んでいるのは、高磁場MRIをはじめとした前臨床イメージング研究の基盤整備です。

 現在、日本の臨床MRIの台数は100万人あたり50台を超えて、世界一です。臨床用MRI以外に、国内には100台を超える研究用MRIがあり、数多くの大学や研究施設で導入されています。しかしながら、これらの研究用MRIの使用頻度やその管理体制は各施設によってまちまちです。一部の施設では稼働率が高いところもありますが、臨床のMRIに比べ、まったく稼働していない施設も多くあります。その原因は様々ですが、このままでは基礎や研究用MRI分野がどんどん廃れていくのではないかと危惧しております。同じような危機感を持つ多くの研究者の方からの要望を聞く形で文部科学省先端研究基盤促進事業に提案させていただいたのが「研究用MRI共有プラットフォーム」事業になります。

 

■研究用MRI共有プラットフォームの詳細について

 各大学や研究施設と連携し、各施設にある研究用MRIを多くの研究者の方々に利用していただくためのプラットフォームです。今まではMRIの専門ではない人が研究のためにMRIを使う際は、研究者自身が現地に行き、現地のMRI技術者や研究者と一緒に実験をすることが一般的でした。コロナ禍では、感染対策や感染予防の観点から人の移動を伴う共同実験や共同研究が難しくなりました。そこで、研究活動を継続するため、リモート測定などにも対応し、今までの現地での測定に加えて、専門家でなくても研究用MRIを用いて実験ができるようなプラットフォームを考案いたしました。現在、大阪大学保健学科の私の研究室を代表機関とし、量子科学技術研究開発機構、理化学研究所、熊本大学、東北大学、実験動物中央研究所、東京都立大学、明治国際医療大学、国立循環器病研究センター、沖縄科学技術大学院大学が実施機関となります。その他に産業技術総合研究所、慈恵医科大、神戸大学、帝京大学など複数の大学に協力機関として参加していただき、連携をしています。

データ及び画像解析用ワークステーション 2台導入

 現在、研究用のMRI維持費や保守費はかなり高額であり、ヘリウム価格の高騰も相まって、個々の研究科や研究室で運用していくのは困難な状況になっています。また、研究用MRIを操作できる専門家は絶対的に不足しており、実験ノウハウなどの技術の共有も不十分です。コロナ禍でZOOM、Teamsなどのオンライン会議ツールやDropboxなどの用いたクラウドストレージが急速に広まったことで、遠隔地からのリモート測定やリモート実験、さらにデータ共有が可能になりました。このことで画像データの集約も容易になり、遠隔での実験や情報共有はますます進んでいくと考えています。その一方で、難易度の高い実験やどうしても現地で行う必要のある実験もあります。現地での実験の受け入れ態勢も並行して整備することで、オンラインと現地実験を有効に結び付けていくことも大切だと思っています。

 また人材育成や若手の育成もとても重要だと思っております。研究用MRIでは、臨床用MRIよりも測定の設定を細かくできますが、MRI初学者や導入したばかりの施設などを対象に本プラットフォームの熟練の研究者が遠隔や現地でサポートすることで、各施設でしっかりMRIの運用ができるような人材を育てるということも同時にしていきたいと思います。

 現在、各プラットフォームを7つの研究拠点に分けて、各施設や大学の得意な分野をアカデミックな立場から推進してもらっています。癌だったら量子科学技術研究開発機構、脳の研究だったら東北大、新しい撮影方法だったら大阪大学、心臓に関する研究だったら国立循環器研究センターで行うというように各施設の専門性をいかしながら運用しています。さらに、運営委員会では情報共有しながら、各施設でできること、できないことをすり合わせし、全体のボトムアップを図っています。MRIの稼働率が高いところと、稼働率が低いところを把握することで、それぞれの施設の特徴と状況を踏まえたうえで、効率よくMRI装置を動かすこともできると考えています。取得したデータについてもスペックの高い高価なワークステーションや画像解析ソフトもプラットフォーム間で共有することで、共同研究を推進することもでき、さらにそれぞれの施設において研究費の節約に繋がると思っています。同時に、このような取り組みをひろく広報し、多くの研究者に知っていただくことも大切だと考えています。ホームページを立ち上げ、パンフレットの作成し配布し、さらにいろいろなシンポジウムや学会で積極的に本プラットフォームの紹介を行っています。多くの研究者にとって少しでも研究用MRIを使う敷居が低くなればと思っております。

 

ホームページ制作


ロゴ制作


広報誌制作、学会・展示会用ポスター制作等


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